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連載 吉井子の冒険 (5)

連載 吉井子の冒険

作:しみずせい (5)

 

 付き合ってから1ヶ月ほどしたころに吉井子が弟の麦くんを家に連れてきたことがあった。長身ですらりとした体型だが、少しのぞき込むような瞳にはまだ幼さが残っていた。それは、吉井子という典型的なお姉さんタイプの姉がいたからかもしれないなと政孝は思った。「そうそう、あれどうしたのだろう?」政孝は、麦くんから今度見に来てくださいと渡されたライブのチケットを思い出した。日時はとっくに過ぎているのに、急にライブのことが気になった。吉井子と行けばよかったなとうつむきながら声に出して言ってみた。

 

「じゃあ、行くわよ」と吉井子は言った。

 玄関に鍵をかけて、エレベーターに乗って一階まで降りた。エレベーターの中で、吉井子が体を寄せて手を握ってきた。中野駅まで二人でいつもよりゆっくり歩いた。中の駅の北口改札を入ってすぐ左手の階段を上った。中央線に乗って新宿まで行き、山手線に乗り換えた。吉井子は、家から全く口をきかなかったし、政孝もあえてしゃべろうとはしなかった。電車に乗ってから、「今日の白の美術館は、何か特集があるの?」と政孝は吉井子に聞いてみた。

「そんなこと、知らないわよ。何が特集でも良いの。とにかく中に入れれば。」政孝は黙ってうなずいた。

 

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